« 酔拳と脚本家 | トップページ | 銃弾か天使の指先か »

2005年5月10日 (火)

作家の執念

 入院している脚本家の田中浩司を、お見舞いに行ってきた。
 蕨市民病院。
 ワラビという、なんだかおいしそうな町の名前。
 友達のお見舞いというのに、はじめて降り立った町だったので、いきなり観光気分になってしまった。
 タクシーに乗ると、ワンメーターで病院についた。これなら歩けたなと思う。
0559_002  
 ぼくは町をゆっくりと歩きながら、観察するのが好きだ。
 どんな人たちが、ここでは生活しているんだろう。
 どんなドラマがここでは毎日おきているのだろう。
 そんなことを考えながら歩いていると飽きることはない。

 病院の近くに、すこし大きめの神社があるのが見えた。
 神社も好きだ。
 神社のなかは、いつも空気がきれいに澄んでいる気がする。
 いや、まちがいなく、その土地で、もっとも地脈のいい場所に神社は建てられている。
 ぼくは、神社の境内で、土地のエネルギーを体で感じるのが好きなのだ。

 テレビドラマのセットにでてくる、明るすぎる病院とはちがい、本物の病院には、なんだか沈殿したような暗さがただよっている。
 そりゃ、そうだよなと思う。
 病気や怪我をかかえた人たちの、重い雨雲のような気分が、そこらじゅうにたちこめているのだから。
 あちこちに、いらだちや、かなしみや、あせりや、いたみや、くるしみが、かたまりのようになっているのを感じる。
 ぼくら、外からきた訪問者は、それらにできるだけ触らないように、慎重に歩かなければならない。
 胃のあたりが、ちょっとと重くなる。
 自分が少し緊張しているのがわかった。

 田中くんは、予想していたよりも、元気そうに見えた。
 ベッドのうえで起き上がって、ぼくを迎えてくれた。
 それでも数日前までは、トイレに行くのも禁じられていたというほどの重症だったらしい。
 すでに入院して二週間以上もたっていると彼は言った。
 病院にくるまで、自分の状態が、そんなに悪くなっていると気づいていなかったらしいのだ。
 喘息の具合が悪いと思って病院にきたら、それは実は心臓が原因で、あやうく心臓が止まりそうになっていたのである。
 そのまま入院。
「もう運動もできなくなっちゃったよ。……エッチもね」
 と、彼は冗談めかして笑いながら言ったが、ぼくは、どう答えていいかわからなかった。

 しかし、作家は、死ぬまで作家なのだ。
 さすがだと思ったのは、彼がベッドのうえで、書きつづけていた、ノートを見たときだ。
 そのノートには、入院してノートをつけられるようになってからのことが、びっしりと書きつけられていた。
 毎回の食事については、詳しいイラスト付きである。

「このまま死んじゃったら、これが遺作になると思って、書いてんだ……いや、一日中ベッドからでられなくて、なにもすることないしね」
 作家魂だ。
 おれは、はじめて田中くんを、尊敬した。
 ごめん、はじめてで、田中くん。

 実は、この田中くんには、ぼくはこっそり嫉妬していたことがある。
 なんせあの寺山修司の弟子を名乗れる男なのだ。
 ぼくが一度はあこがれた寺山に、かわいがられた男なのである。
 そりゃ、嫉妬してもいいでしょう。
 しかし寺山さんにその才能を買われていたにもかかわらず、ぼくの知っている田中くんは、どちらかといえば、どんくさいタイプの男で、純粋であるがために、生きかたが不器用に思えていた。
 だが、やはり、この男は立派な作家だった。

 人間、自分が死ぬとわかったときに、なにをするかは、大きな問題だ。
 この男は、作品を書いていた。
 しかも、懇切丁寧な食事のイラスト付きで。
 そこには、なんともいいようのないユーモアがあるではありませんか。
 おろかしくも、真剣なユーモアが。

 ほんとに、尊敬したよ、田中くん。
 きみがいいというから、ここにきみの記念写真をのっけます。
 きっと、このブログを見た人は、みんなきみを尊敬するよ。

0559_003

 でも、あのなんだか不思議なイラスト付きのノートは、遺作にはならないと思う。
 まだきみは、しぶといよ。

|

« 酔拳と脚本家 | トップページ | 銃弾か天使の指先か »

コメント

ここみて病院にいってみたけど10日に退院されたようで、ひと安心、しばらく自宅療養なんでしょうね、落ち着いたら訪ねてみます。

投稿: まあしい | 2005年5月12日 (木) 06時53分

びっくりしました。
また是非またヤンチャをして欲しい。
彼のイラストなかなかのものだったのを思い出しました。、ていねいなんだけど、そう!ユーモアがあるよね?

この経験をネタにまた世界を拡げるんだろうなあ。
書く人たちのしぶとさよ!

記事ありがとう。

投稿: A-nの「n」 | 2005年5月13日 (金) 00時11分

ステキですね~^^*作家魂、しっかり感じさせていただきました!私も役者魂発揮だなこりゃ☆いやいや、まだまだあと90年は生きるつもりですけど(目標108歳?!)

投稿: 人見 はる菜 | 2005年5月15日 (日) 00時35分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/100879/4064565

この記事へのトラックバック一覧です: 作家の執念:

« 酔拳と脚本家 | トップページ | 銃弾か天使の指先か »