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2006年11月10日 (金)

駅のできごと

しゃべりつづける人を見た。
その人は、相手が聞いていないことも、まわりの人がびっくりしていることも、何も気にせず、ひたすら自分が被害にあっているんだと訴え続けていた。

JRのみどりの窓口に新幹線の問い合わせに行った。
僕の前に二人の人が並んでいた。
最前列は、スーツ姿の女性、二人目はホスト風の若者。
しゃべりつづけていたのは、そのスーツの女性だった。

彼女の異常には、すぐに気づいた。
その口調、スピード、駅員の困惑した表情。
聞こえてくる話は、彼女が仕事で不当に解雇されたということ、どうも何者かが自分の邪魔をしているということ、ネットで自分の中傷が流されていることなど。
JRやみどりの窓口とはいっさい関係のないことばかりだ。
駅員が当惑するのもあたりまえ。

彼女が精神的バランスを崩しているのはあきらかだった。
そういう人を目の当たりにしたとき、一般人なら避ければいいことだが、駅員としてはむげにするわけにはいかないらしかった。
駅員は、必死に対応しようとしていた。少なくとも話は聞いてやろうとしていた。
だが、彼女の勢いは止まらず、どんどん暴走パワーはすさまじくなっていく。

僕とホストも、しばし凍りついたように動けないでいた。
ホストは僕のほうをふりむき、なぜか笑った。
僕も笑い返すしかなかった。

クレームを言い続ける彼女は、全身から助けてくれとのサインを出していた。
だが、僕たちは、何もしてあげられなかった。
僕らはすぐ側に立っていたかもしれないが、僕らの声は、彼女にはどうやっても届かないのだ。

駅員は、先輩駅員を呼びに行き、今度は、このおじさん駅員が、このクレーマー彼女の言葉の嵐をまともにうけることになった。
彼が凍りついたのは言うまでもない。

「ご家族に電話してあげた方がいいんじゃないですか。」
と、僕はこのおじさん駅員の耳元で、そっとささやいて、その場をあとにした。
その後、どうなったかわからない。

劇団ハイバイの岩井秀人が、かつて書いた台本のことを思い出した。
喫茶店で言い争う恋人たちの会話を、まわりの客が聞いているくせに、聞いていないふりをするシーン。
稽古場で見た、そのシーンは、とてもおかしかった。
今日の駅のシーンは、残酷で、ちょっと悲しかった。

何もしてないのに、わずかな罪悪感が残った。

地下鉄の駅に向かおうとしていたら、足の悪い老婦人が、重い荷物を持って階段を一歩一歩あがっていた。
僕は、老婦人に声をかけて、荷物を持って上まであがった。
老婦人は、ありがとうと言ってくれた……
でも、どこかで罪滅ぼしがしたかっただけなんです。

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コメント

駅で云々の前、一番の最初に。

彼女の話を聞いてあげる人が傍に居たら、そんな状態にならずに済んだのかもしれないし、そもそも病気ということで無理だったのかもしれませんね。

先日、万引きを見た精神障害のある方がパニックを起こして、逆に怪しまれて店の奥に連れて行かれてしまい、しかもかばんの中から障害者手帳を持っているとわかった瞬間に、「この手の人は何をするかわからない」と言い放ったそうです。

見てすぐに病気とわかることがよいことなのかどうか、一人で行動することの大変さをどこまで理解してあげられるのか、今の私には答えが出せません。

投稿: なるみ | 2006年11月11日 (土) 11時05分

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