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2007年3月31日 (土)

ルチャドール

  ちょっと長文です。僕と一緒に旅をしてるつもりで読んでね。写真があれば、もっとよかったのになぁ。

『博物館からルチャリブレ』

  今日の予定は、国立博物館で歴史的な遺物を見ること。
 遺跡から出土した、いろんなものがあるらしい。そりゃ、見とかなきゃね。

 実は、睡眠がうまくとれてない。
 三時間寝ては、六時間起きて、また三時間寝るみたいな感じ。
 けっきょく明け方まで、なんだかんだと作業してた。
 こういうときは体の本能のおもむくままにまかせるにしてる。
 眠たくなれば、寝る。それまでは何か書いたり、読んだりする。
 締め切り前と同じ。
 こういう不規則生活には慣れてるのが、ヘッポコ脚本家のいいところ。(本当は体にはあんまりよくないんだろうけどね)

 ガイドさんとの待ち合わせの時間まで、少しあると思ってホテルを出て、近場をブラブラ。
 このあたりはオフィス街。スーツ姿のビジネスマンやウーマンが足早に歩いている。
 近代的なビルと整備された歩道と並木道。
 でも、一歩路地に入ると、老朽化したビルとふぞろいな歩道。
 ここも格差が多いにある。
 家の軒先につくった小さな店がつづく。昼時が近いので、屋台やワゴンも角ごとに出ている。法律的には屋台は禁じられているらしいが、彼らの仕事を奪うわけにはいかないので、黙認されているという。

 ときどきギョッとするのは、物乞いの人が歩道に座ってたりすること。
 いきなり手のひらを差し出されるので、びっくりしてしまう。だいたい年取った女の人が多い。子ずれの人もいる。
 これも一つの労働なんだろうと思う。

 焼きたてパン屋みたいなので、菓子パンと水買って、食いながら歩く。ちょっと日本のディニッシュよりは、少し大きめだった。味はまずまず。

 失敗その一。
 ガイドさんとの待ち合わせの時間を一時間勘違いしてた。
 けっきょく一時間、またブラブラ。
 東京という名前の、日本食屋があったのでふらふらと入った。
 居酒屋風の作り。メキシカンの女子店員が居酒屋の制服で注文をとりにくる。
 なんか言ってる。
 雰囲気で飲み物はどうする?
 って聞かれてるんだと思った。
 『すうどん』を注文。だって、メニューにそう書いてあったんだもん。
 薄い醤油味のうどんが出てきた。肉団子みたいな、厚揚げらしきものが浮いている。
 うん、たしかに、うどんだ。
 だしは取ってないかんじだったけど、麺は、ちゃんとうどんだったよ。

 メキシコ国立人類学博物館。
 アメリカの起源から、ティオティワカン、アステカ、マヤなどの遺跡から発掘されたものや、それらを再現したものが展示されてた。
 どれも見どころたっぷり。
 ここで一つ一つ書いてたらきりがないので、省略します。
 全体として印象に残ったのは、
 『仮面』
 メキシコのルーツには、仮面がある。
 仮面が象徴するものを、もっと考えてみようと思った。

 マヤの人たちが、自分たちが崇拝する者(蛇神)に近づきたくて、頭蓋骨を変形させたり、目つきや、鼻を整形していたということを、はじめて知った。
 人は、昔から、何かになるためには、エネルギーを惜しまなかった。

 みんな、何かになろうとしていた。
 それが人類の歴史なのか。

 この博物館では、鉄の文明に滅ぼされる前の石の文明が、そのなごりを見せてくれている。
 石を刻んだ人たち。
 きっと素朴な人たちだったにちがいない。

  博物館を歩くのは、なぜだかものすごく疲れる。
 立ち止まっていることは、それだけで重労働なんだと思う。
 歩き続けているほうが、よっぽど楽な気がする。
 重力をもろに足腰に受けるか、歩いて地面に流しこむか。

 そういや遺物には、羽のはえたとか、風の神とか、そんなのがずいぶんあった気がする。古代人たちも、重力から解放されたがってたんだと思う。

 アステカの太陽の石の前で、秋葉原からまっすぐやってきたって感じの、リュックをしょった小太りのメガネの男が声をかけてきた。手には『地球の歩き方』
 バックパッカーのM森君。
 なんだか同じ匂いを感じた。
 こいつはプロレス好きにちがいない。
 彼は電話のかけかたを、ガイドさんに聞いてきたのだったが、僕はすかさずたずねた。
「今夜、ルチャリブレ見に行きますか?」
「ええ、そのつもりですけど?」
「じゃあ、一緒にいきませんか?」
 というわけで、僕とM森君ははルチャリブレの会場である、アレナ・メヒコで待ち合わせることになったのだった。
 プロレスは、一人で見るより、仲間と一緒に盛り上がったほうがテンションがあがる。

『燃えるアレナ・メヒコ』

  見知らぬ町では、電車に乗るという、きわめて日常の行為でさえ、冒険に感じられる。
 これは子供の感覚だ。
 子供のときは、何もかもがはじめてすることなので、毎日が冒険だった。
 小学生のとき、はじめて博多の町に電車で行った時のことは今でも覚えている。
 切符を買うのにも、どきどきしたものだ。
 そんな感覚がよみがえっている。

 僕は、地下鉄に乗りたかった。
 メキシコシティでは、地下鉄の料金はオリンピックの時から、四十年以上変わっていないらしい。どこまで乗っても2ペソだ。日本円で約22円。信じられない安さ。一度、値上げをしようとしたら暴動が起きて、大統領はそれを断念したらしい。
 民衆のパワーも象徴している、地下鉄料金。

 地下鉄の駅は、ホテルからソナ・ロッサを抜けて、少し行ったところにある。
 インスルヘンテス駅。
 ソナ・ロッサを抜けていくのは、スペイン風になった渋谷のセンター街を行く感じ。
 ところが駅の手前が、ものすごい人ごみになっている。
 週末のソナ・ロッサは、若者たちの集う場所なのだ。
 台湾の夜市を思い出した。とにかく駅がすごいことになっていた。人、人、人。チケット売り場は、長蛇の列。それなのに二カ所しか売り場がない。
 ラーメン屋でも並んだことがないのに、2ペソのチケットのために時間を使いたくない僕は、アレナ・メヒコまで歩いて行ってみようと思った。
 そして迷わず歩きだす。

 地図で見ると、すぐにつきそうな気がしたけど、歩きだしたら想像したよりは長い道のりだった。
 しかも駅からちょっと離れると、ほとんど人が歩いてなくて、暗いし、ちょっとビビる。 こんなところで屈強なギャングに路地裏に引きづりこまれたら、もうアウトだ。
 そんな妄想が浮かんだけど、そんなギャングが現れるわけなかった。
 三十分ほど歩くと、アリナ・メヒコについた。

 アリナ・メヒコは、そっけのない四角い建物だった。だが、そのまわりが大変なことになっていた。
 ここもまた、人、人、人。人、人、人、人人人人人……って感じ。
 会場に入場しようとする人で、ごったがえしていた。
 建物のまわりには、マスクや人形やTシャツを売る、夜店が出ているので、歩道はよけいに狭くなり、そんな状態を作り出している。
 この人ごみのなかで、まちあわせたM森君を見つけなければならないのかと、一瞬絶望感に襲われた。

 だが電話が通じて、M森君は以外と簡単に見つかった。
 彼もこの押し寄せた人たちには圧倒されているようだ。
 彼の持っていたガイドブックには、ルチャは下火で閑古鳥が鳴いていると書かれていたらしいが、そんなのは大間違い。
 今日に限っては、もう祭り状態だ。
 ダフ屋のおっさんも沢山いたけど、言葉がわからないし、なんだか怪しいチケットをつかまされたら困るので、正式なチケット売り場に行った。でも、そこはガラガラ。
 もしかしたら、みんなダフ屋で買ってるのかも……
 ありえるな、それは。
 そういうとこなのかもしれない、この町は。
 チケットは、三階席しかあいてなくて、80ペソだった。

 入り口で入念な荷物検査があり、カメラとペットボトルははとりあげらた。
 あとで返してくれると言うけど、なんだか不安になる。でもしかたがないので、会場内の写真撮影はあきらめるしかなかった。

 会場内には、家族連れもいっぱいいた。小さい子供連れで、みんなで週末を楽しみに来てる雰囲気。
 試合開始前、五分はまだ空席がかなりあるように思えたが、開始時点ではほぼ満員になった。
 一万五千人は入っている。
 この夜の主催は、CMLLというメジャー団体で、アメリカンプロレスの演出を取り入れているところだ。
 会場の一角に、巨大なステージと花道がつくられていて、ど派手な火花やスモークの中をレスラーが登場する。
 その前をもりあげるために、水着姿のナイスバディの美女たちが、しなをつくりダンスをする。
 この美女たちの姿が、リングの上の大型スクリーンに映し出される。
 どうやらテレビ放映もあるらしく、多くのカメラクルーも動きまわっている。

 第一試合は女子プロの六人タッグマッチ。
 ルチャでは、善玉悪玉がはっきりしていて、観客の反応ですぐにわかる。
 善玉が出てくると、大歓声。悪玉が出てくるとブーイング。
 でも、女子プロの登場では、観客は両方に歓声をあげていたように聞こえた。
 たぶんどっちがどっちなのか、よくわかっていない観客がたくさんいるらしい。

 僕と、M森くんは、四人目の選手が現れた時点で、いきなり盛り上がってしまった。
 リングアナが、スペイン語で「ハポン……シマダ」と言ったのが聞き取れたのだ。
『シモダって……あの下田美馬じゃない!?』
 二人は顔を見合わせる。
 M森君が、ぽつりとつぶやいた。
「メキシコに渡ったっては聞いていたんですけど、こんなところでやってたんですね……」
 なんだよ、その情報力。やっぱりこいつはオタクだ。
 M森くんは、さりげなくバッグからルチャの情報誌を取り出した。ここに来る前に、どこかで買いこんできたらしい。その雑誌には、今日の試合のプログラムが書かれていた。そこにはちゃんと英語で、下田の名前とタッグパートナーの日本人の女の子の名前(ユイカとかなんとか)が書かれていた。

 下田美馬は、まだ全日本女子プロレスが人気をほこっていた時代に、アイドルレスラーとして写真集とかまで出したことのある、実力派の選手だった。
 その後、全女をやめてからは、いろんな団体を転々としていたようだが、昨年からメキシコに活動の場を移したらしかった。これはM森君からの情報。
 日本の女子プロの中でも、超ベテランの部類に入るレスラーで、もう三十代半ばだと思う。
 そんな彼女が、ここでは全盛期の輝きを放っていた。

 いきなり相手のメキシコ人レスラーに奇襲攻撃をしかけていき、自分たちがヒールであることを、観客にしらしめると、そこからは見事な技の連続。
 鮮やかに一本目を先取しました。
 もう観客は一気にヒートアップ。
 女子の三本勝負というのは、珍しいらしい。
 二本目と三本目は、善玉チームに取られて、下田選手たちは足をひきずりながらの退場だったけど、お客さんたちは大満足。

 僕は、なんだか感動していた。
 女子プロの試合の展開ではなく、日本では活躍の場をなくした一人のプロが、自分の場所を見つけて、たくましく活躍していることに、心を動かされていたのだ。
 これこそプロだと思った。
 ヨーロッパのサッカー選手や、メジャーの野球選手とはちがって、ギャラだってそんなにいいはずはない。
 きっと過酷な状況のなかで闘っているにちがいない。
 それでもプロとしての自分の表現の場所を、どこまでももとめて、それを現実につかんでいる姿。
 それはすごいことだ。

 やめてしまうことは簡単なこと。
 つづけることは、ものすごい努力と、心の力が必要にちがいない。
 自分の肉体しかたよることができないプロスポーツの世界だと、それはさらに過酷になるだろう。

 僕は下田選手の輝く姿を見て、自分も自分の仕事の場所を、どこまでも追い続けるプロでありたいと強く思った。

 男子のルチャは、そりゃあもう、すさまじい盛り上がりだった。
 これぞ、本場のルチャ・リブレかと感激。
 観客とレスラーが一体になって、まるでロックコンサートのような熱狂がつづく。
 観客席にもレスラーと同じようなマスクをかぶったのが、いっぱいいるのだから、それはもう異様な雰囲気。
 ふと気づくと、僕のとなりに座っていた小学生たちも、マスク姿になっていた。
 マスクをかぶると、子供なのか、大人なのかもわからなくなる。
 マスクマンに囲まれての熱狂。
 僕もマスクをかぶっていたかった。
 というより、ここはマスクをかぶって一緒にのらなきゃ嘘だ。

 ルチャ・リブレは、メキシコの人たちにとっては、水戸黄門みたいな勧善懲悪のエンターテイメントだ。
 出場してくるルチャドールたちも、わかりやすくできている。かっこいいマスクをかぶっているのはヒーロー。悪役は、顔にペイントとかして、憎々しそうにしている。
 展開されるプロレスは、きわめて高度な技を次々と繰り出して、お客をあきさせないものだった。
 僕らは、セミファイナルまで見たんだけど、ドスカラスJrとか、ミステリオとか、僕でも聞いたことがあるようなレスラーがでてきて、楽しめた。

 メキシコの古代遺跡から出土した遺物には、たくさんのマスク類があった。
 デスマスクなのもあるらしいが、僕には、彼らが超自然の能力を身につけたくて、つくったマスク類もあるような気がした。
 アステカ人たちは、戦いのためには、ジャガーや、イーグルなどの扮装をしていたらしい。
 思えば、それはルチャドール、そのものではないか。
 華麗なマスクを身につけ、日常の自分ではない何者か(ヒーロー)になり、戦い、悪を倒す。
 彼らは古代の戦士たち(神)の遺伝子を受け継ぐ者たちなのだ。

 メキシコで、これだけルチャ・リブレが民衆の中に溶け込んでいるには、それなりの理由があるのだと思う。
 古代から脈々とメキシコ人たちの血の中に流れるDNAが、彼らにマスクをかぶらせるのだ。

 帰りの混雑が予想できたので、メインの前に会場の外に出た。それでももう十二時近くくになっている。
 もちろんマスクを買った。
 ぼくは、メキシコの歴史が生んだマスクを大事に抱えて、地下鉄で帰路についた。
 

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